重婚とは「配偶者のある者が重ねて婚姻することで、民法上の離婚原因または婚姻取り消しの原因となり、刑法上は処罰の原因となる」(広辞苑)
北向きの六畳間は夏でもひんやりとして薄暗く、中の様子は余りはっきりとは見えなかったが、畳に敷かれたの布団の上には確かに光枝が寝ていた。寝間着姿に赤い腰ひもを締め、掛け布団は足下にキチンと畳んだままこちらに背を向けて寝ていたが、その巾の廣い背中を見て凛太郎直ぐ光枝と断定した。彼は一瞬目を疑ったが「あれっ、お前生きてたの? 元気なの?」と思わず矢継ぎ早やに叫んだ。光枝はくるっとこちらに向きを変えたが弾みで、はだけた胸もとを手でかき寄せながら「ええ私ずっとここにいましたの。とっても元気ですわ」とにこやかな張りのある返事に凛太郎は戸惑いそして思考は混乱した。確かに死んだ筈なのに今更生きているなんて、なんていうことなんだ?今、俺は恭子と結婚している、なのに光枝が目の前にいる、俺は二人の夫、重婚、それで良いのか、いやそうは行かない。一瞬こんな自問自答が彼の脳裏を駆けめぐった。凛太郎は言いにくそうに「俺 今もう結婚しているんだよ、お前が元気でいるとは 本当に知らなかったよ、ほんとうなんだ」とすまなさそうに口ごもった。「そう でも私ずーとこの家にいましたのよ」と屈託のない笑顔で答えた光枝は病気で青白くむくんだあの姿とは打って変わって健康で生気に溢れていた。彼の言い訳を別段とがめようともせず、さもない様子であっさり答える彼女に混乱と懐かしさが入り混って考えの整理もつかないまま凛太郎は光枝を抱き寄せ、寝間着の胸を荒々しく左右に開くと大きな茶碗を伏せたような二つの小山が目の前に現れた。
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